関西大学システム理工学部
ノートパソコンやスマートフォンなどの個人使用のコンピュータの高性能化に伴い,個人が扱うアプリケーションのデータ量の増加が顕著なものとなった今日,クラウドコンピューティングという概念が誕生しました.クラウドコンピューティングでは,個人が自身のコンピュータ上でデータを保守・管理し,処理するのではなく,インターネットの先に存在するコンピュータ群(クラウド)にデータの保守・管理や処理を委任します.このサービス形態はクラウドサービスと呼ばれ,メールやデータベース,仮想オペレーティングシステムなどのサービスに適用されています.これらのサービスを提供するために必要不可欠な設備がデータセンタです.データセンタにおいては,数十万台の高性能サーバがネットワークを介して分散的に処理を行います.当研究室では,クラウドコンピューティングを下支えするデータセンタネットワークの問題点の解決や,性能向上を目的とした研究に取り組んでいます.
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Facebook,Twitterなどのソーシャル・ネットワーキング・サービスの普及によりデータセンタネットワークにおいてマルチキャストが使用される可能性が高まっています.例えば,分散ファイルストレージシステムにおけるデータの複製や,データセンタ内のOSの更新などにおいても,マルチキャスト通信を用いることでリンクをネットワークの効率的運用が可能となります.このような背景から,データセンタ内でマルチキャスト通信を実現することを目的に信頼性やスケーラビリティに関する研究が盛んに行われています.
データセンタネットワーク内のリンクを高利用率で運用するためには輻輳制御が重要です.しかしながら,マルチキャスト通信を対象とした輻輳制御に関しては,研究はあまり行われていません.そこで当研究室では,広帯域低遅延のデータセンタ環境に対応したマルチキャスト輻輳制御に関する研究を行っています.
データセンタでマルチキャスト通信を行う際に,4層ユニキャスト輻輳制御方式であるDCTCP (Data Center TCP) と同一のリンクを共有することが考えられます.また,マルチキャスト通信を行う際には,ルータはマルチキャストグループのステートを保持する必要があります.しかしながら,データセンタネットワークで使用される安価なスイッチのメモリ量は少ないため,スイッチに複雑な機能を要求できません.そこで,我々はスイッチに複雑な機能を要求しないマルチキャスト輻輳制御方式TFMCC (TCP-Friendly Multicast Congestion Control) を基にデータセンタ環境に対応したエンドツーエンドマルチキャスト輻輳制御方式DCMC(Data Center Multicast Congestion control)を提案しています.DCMCはマルチキャストグループ内の最悪輻輳状態にある受信者を選択し,送信レートをDCTCPと親和性のあるものに合わせることでスループットの公平性を実現します.
大規模なデータセンタには,LAN (Local Area Network)とSAN (Storage Area Network)と呼ばれる二つのネットワークが存在しています.これら二つのネットワークを構成するネットワーク機器の消費電力や各ネットワークにおける配線の複雑化の問題が深刻化しています.そこでLAN/SANの統合がIEEE802.1 Data Center Bridging Task Groupにより標準化されています.これまで,LANではフレームロスに対しては,トランスポート層のTCPにより対応できることを前提に厳格な対応をしていませんでした.これに対し,SANではデータストレージのバックアップ時などに与える影響が甚大であることから,極力フレームロスを許容しないプロトコルが用いられてきました.このようにフレームロスへの対応に大きな差異のあるLANとSANを統合した場合,フレームロスを非常に低く抑えるプロトコルをLANで用いられるイーサネット上に展開される必要があります.そこで2層スイッチにおいてフレームロスを抑制するための方法として,2層輻輳制御の研究が活発に行われています.2層輻輳制御の一つとしてIEEE802.1Qauにおいて標準化されているQCN (Quantized Congestion Notification) があります.QCNでは,輻輳状態において確率的にスイッチから送信ノードへ送られるフィードバック情報をもとに,送信ノードが送信レートを調整します.低いキュー長をターゲットとしてここにキュー長を安定させることで,ロスレスでかつ高利用率を実現する輻輳制御です.
しかし,QCNでは輻輳時にスイッチが確率的に輻輳通知フィードバックを送信するため,単一のボトルネックリンクを通るフロー数が増加した場合に,輻輳状態にあるにも関わらず送信ノードが輻輳通知フィードバックを受信できずレートを制御できない可能性があります.これにより,ボトルネックリンクのキュー長を不安定に変動させる問題も生じます.我々はこれらの問題に対して,QCNに遅延ベースによるレート制御を組み合わせることで,送信ノードがフィードバックを受信できない場合においても適切に送信レートを調整可能なQCN/DC (QCN with Delay-based Congestion detection) を提案しています.QCNに遅延ベース輻輳制御を組み合わせることにより,遅延ベース輻輳検知によってフロー数増加時にQCNのフィードバックが返送されない状況でも適切にレートを下げることができます.また,QCNのレート制御メカニズムにより,フロー数増加時にも各フローの送信レートを細かい粒度で制御でき,通常のQCNにより安定したキュー長で動作させることが期待できます.
また,データセンタネットワークでは通信形態としてマルチキャストが多く使用されるため,一つの輻輳制御のセッションに対して,複数のボトルネックリンクが存在する状況が比較的多く発生します.マルチキャスト通信を行った場合,複数ボトルネックポイントより返送されるフィードバックにより,送信レートが過度に抑制される問題があります.これに対し,我々はボトルネックポイントごとにレート計算を行い計算されたものから最小のレートを選択するQCN/BS (QCN with Bottleneck Selection) を提案しています.これにより,複数ボトルネックを経験するフローの送信レートの過度な減少を防ぎ,フロー間の公正性を実現が可能となります.